ビールの世界は広くて奥が深いものです。
ラガーやIPA、ピルスナーなど馴染みのある種類も多い中で、少し玄人好みともいえるのが「スコッチエール」。
芳醇な甘みとアルコールの温もりを感じさせるこのビールは、ゆっくりと味わいたい大人の一杯といえるでしょう。
この記事では、スコッチエールの魅力を徹底的に掘り下げ、そのルーツや製法、味わい、さらにおすすめの飲み方や銘柄まで紹介していきます。
スコッチエールとはどんなビール?
スコッチエールは、スコットランド発祥のエールタイプのビールで、深いコクと甘い香りが特徴です。
ホップの苦味が控えめなため、モルトの旨みがしっかりと際立ちます。
スコットランド生まれの歴史背景
18世紀のスコットランドでは、イングランドと比べてホップの栽培が難しかったことから、ホップよりもモルト(麦芽)を主体としたビール造りが主流でした。
この土地特有の条件が、濃厚で甘みの強いスコッチエールを生み出しました。
農家が余った麦芽を利用して家庭で造っていたというエピソードも残っており、当時の生活に密着していたことがうかがえます。
また、スコッチエールは「スコティッシュエール」や「ウィージーヘビー」とも呼ばれることがあります。
呼び方によってスタイルの細かな違いがあるため、銘柄を選ぶ際にはアルコール度数やモルト構成をチェックするのも楽しみの一つです。
色合いやアルコール度数について
スコッチエールをグラスに注ぐと、ルビーがかった深い琥珀色が目を引きます。
光にかざすと、まるで宝石のように輝くその色味に見惚れてしまいます。
アルコール度数は6〜9%と高めで、飲んだ後にじんわりと体が温かくなるような感覚があります。
冬場に暖炉の前でゆっくり味わうにはぴったりのスタイルです。
アルコール感が強く出るため、ゆっくりとしたペースで味わうことが大切です。
筆者も最初は勢いよく飲んでしまい、酔いが早く回った経験がありますが、それ以来は小ぶりなグラスに注いで、香りとともに時間をかけて楽しむようになりました。
スコッチエールの製法と味の特徴
スコッチエールの魅力は、伝統的な製法にあります。
麦芽の旨みを最大限に引き出すための工夫が随所に凝らされており、その結果として唯一無二の味わいが生まれています。
ロングボイルによるカラメル化
醸造過程では、麦汁を長時間煮込む「ロングボイル」が行われます。
これによって麦芽の糖分がカラメル化し、ビール全体に深い甘みとコクをもたらします。
口に含むと、トフィーやダークフルーツ、焼き栗を思わせるような豊かなフレーバーが広がります。
この製法は時間と手間がかかるため、大量生産には向きません。
しかしその分、造り手のこだわりや情熱がそのまま味わいに表れます。
個人経営のブルワリーやマイクロブルワリーでは、このロングボイルを敢えて採用することで、他のビールとの差別化を図っていることもあります。
ホップ控えめで麦芽の主張が際立つ
ホップは香りづけ程度に使われるため、苦味はほとんど感じません。
その代わりに、モルトの香ばしさとリッチな味わいが前面に出ます。
滑らかでフルボディな口当たりがあり、一口一口が満足感に満ちています。
ゆっくりと味わうことで、その複雑な風味の層が少しずつ顔を出してくるのも魅力の一つです。
スコッチエールは「飲むほどに味が変化する」タイプのビールともいえます。
冷蔵庫から出してすぐに飲むよりも、少し時間を置いて温度が上がってきたときに香りや甘みが一層際立ちます。
自宅で楽しむ場合は、グラスを手で温めながら飲むのもおすすめです。
おすすめのスコッチエール銘柄
スコッチエールをこれから飲んでみたいと考えているなら、まずは定番や歴史ある銘柄から試してみるのがおすすめです。
実際に飲んで感動したビールをいくつか紹介します。
ベルヘブン・スコティッシュエール
スコットランドの老舗ブルワリー、ベルヘブンが手がけるスコティッシュエールは、伝統を感じさせる一本です。
ローストモルトの甘みと、スモーキーな余韻が絶妙に混ざり合っており、初心者にもおすすめしやすい味わいです。
まろやかでクセがなく、それでいて奥行きのある香りが長く続きます。
実際に飲んでみると、焦げたキャラメルのような風味と、ほんのり感じるスモーキーな香りが絶妙なバランスでした。
夜の静かな時間に、音楽と一緒に味わいたくなるようなビールです。
トラクエア・ハウスエール
スコットランドで最も古いとされる醸造所のひとつ、トラクエア・ハウスで作られるこのエールは、歴史と格式を感じさせる逸品です。
ドライフルーツやレーズン、ビターチョコのような香りが口の中に広がり、時間が経つにつれて味わいに変化が出てくるのも魅力です。
瓶ごとに微妙に風味が違っていることもあり、開けるたびにちょっとした冒険気分が味わえます。
筆者が購入したロットでは、熟成感が強くウイスキー樽のような風味も感じられ、何とも贅沢な印象を受けました。
日本国内のクラフトブルワリーによる限定醸造
近年では日本国内のクラフトブルワリーもスコッチエールを手がけるようになっています。
筆者が驚いたのは、長野県の南信州ビールが季節限定で出していたスコッチエール。
焦がしキャラメルのような甘みとしっかりしたアルコール感があり、まるで洋酒を思わせる飲みごたえでした。
日本ではまだ流通量が少ないため、ブルワリーのオンラインショップやクラフトビールフェスで探すのがコツです。
季節限定品が多いので、SNSなどでの情報収集も重要になります。
スコッチエールの楽しみ方と食事との相性
スコッチエールは、単独で味わうのはもちろん、料理と合わせることでそのポテンシャルをさらに引き出すことができます。
どんなシーンやメニューに合わせると、よりおいしく感じられるのでしょうか。
食後酒やリラックスタイムに
スコッチエールは、甘みとアルコール感がしっかりしているため、デザートやチーズと合わせて食後酒として楽しむのに最適です。
ブルーチーズやチェダーなど、コクのあるチーズとの相性は抜群です。
ゆったりとした夜のひとときを演出してくれます。
また、読書や音楽鑑賞などの趣味の時間に添える一杯としても重宝します。
まるでウイスキーのような風格があり、時間を忘れてゆったりと過ごすのに最適です。
煮込み料理や燻製料理との相性も良好
肉料理の中でも、特に煮込み系との相性が際立ちます。
ビーフシチューやラムの赤ワイン煮込みなど、しっかりとした味付けの料理と合わせることで、ビールの甘みとコクが料理の旨味をさらに引き立てます。
また、スモークサーモンや燻製ベーコンなど、香り豊かな食材との相性も抜群です。
スコッチエールと牡蠣の燻製を合わせてみたことがありますが、濃厚な味わいが互いにぶつかることなく見事に調和していて驚きました。
自家製おつまみとのペアリング
自宅で楽しむなら、ナッツのキャラメリゼやレーズンバター、ミルクチョコレートといったシンプルなおつまみと合わせるのもおすすめです。
アルコール度数が高めなので、少量でも満足感があり、だらだらと飲みすぎる心配もありません。
気の置けない友人とゆっくり語らう夜にもぴったりです。
まとめ
スコッチエールは、単なるビールという枠を超えた奥深い存在です。
スコットランドの風土や歴史に根ざした製法から生まれる味わいは、まさにクラフトビールの醍醐味を体現しています。
ホップの苦味よりもモルトの甘みやコクが好きな人、ワインやウイスキーのようにゆっくりと楽しみたい人にとっては、理想の一杯といえるでしょう。
これまでスコッチエールを知らなかった人も、この記事をきっかけに一度試してみてはいかがでしょうか。
いつもとはちょっと違うビールの世界に、きっと心が惹かれるはずです。
冷たいビールをぐいっと飲むだけではない、深くて豊かな楽しみ方がそこにはあります。
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