クラフトビールを飲み始めると、メニューやボトルのラベルに「IPA」「ペールエール」「スタウト」といった単語が並んでいるのに気づきます。
見た目や響きは知っていても、それぞれがどんな味の世界を持っているのか、初めは漠然としているものです。
私も最初のころは、IPAを注文してあまりの苦味に驚き、スタウトを見て「これは重そうだ」と勝手に敬遠していた時期がありました。
ところが、少しずつ飲み比べていくうちに、それぞれのスタイルには歴史や文化が詰まっていて、味わい方の幅も驚くほど広いことに気づいたのです。
今回は、クラフトビールの世界で定番ともいえる3つのスタイル、IPA、ペールエール、スタウトについて、特徴や味の違いを私の体験も交えて解説していきます。
銘柄や地域ごとの傾向にも触れながら、これからクラフトビールを楽しむ方に参考になるようまとめました。
IPAは味わいの奥行き
IPAは「インディア・ペールエール」の略で、19世紀にイギリスからインドへビールを長距離輸送する際、品質を保つためにホップを多めに使用したことがルーツとされています。
ホップの香りと苦味こそが、IPAの個性そのものです。
初めてIPAを飲んだのは、東京・中目黒の小さなビアバーでした。
グラスを口に近づけると、オレンジやグレープフルーツの皮のような香りが鼻をくすぐり、一口飲むと苦味が舌を刺激して一気に目が覚めるようでした。
その日は「ブルックリンIPA」というアメリカの定番銘柄を選びましたが、柑橘の爽やかさとドライな飲み口のバランスが心地よく、もう一杯欲しくなる味わいでした。
IPAにもさまざまな種類があります。アメリカンIPAは柑橘やトロピカルフルーツの香りが強く、ホップの苦味もしっかりと効いています。
私のお気に入りは、カリフォルニア州サンディエゴの「ストーンIPA」。これを初めて飲んだときは、香りだけで満足できそうなほどの豊かさに圧倒されました。
逆に、セッションIPAはアルコール度数が低く、軽快で飲みやすいため、夏の昼間やアウトドアでぴったりです。
北海道のブルワリー「忽布古丹醸造」のセッションIPAは、爽やかな柑橘感と軽いボディで、暑い日に何杯でもいけそうな味でした。
イギリス発祥のオールドスクールなIPAは、モルトの甘みがしっかりと感じられ、苦味も穏やかです。
ロンドンで飲んだ「フラーズIPA」は、現地のパブの温かい雰囲気と相まって、ほっとする一杯でした。
同じIPAでも、アメリカとイギリスではこうも印象が違うのかと驚かされます。
IPAと料理の相性
IPAはスパイシーな料理や脂のある肉料理と好相性です。
以前、自宅でチリコンカンを作ったとき、たまたま冷蔵庫にあった「ヤッホーブルーイングのインドの青鬼」を合わせたのですが、苦味が辛さをほどよく中和し、肉の旨みを引き立ててくれました。
クラフトビールの中でも、IPAは「料理と合わせると真価を発揮するタイプ」だと実感しています。
ペールエールはバランス感と親しみやすさ
ペールエールは、IPAと同じくイギリス発祥のエールビールです。
麦芽の甘みとホップの香りのバランスが良く、IPAほど苦味が強くないため、クラフトビール初心者でも飲みやすいスタイルといえます。
私がクラフトビールの魅力に本格的にハマったきっかけは、横浜の「スプリングバレーブルワリー」で飲んだペールエールでした。
銘柄は「496」という名前で、黄金色に輝く液体を一口含むと、麦芽の香ばしさと柑橘の爽やかさが絶妙に重なり、喉を通った後にやわらかな余韻が広がります。
飲みやすいのに物足りなさがなく、「これなら友人にも勧められる」と感じました。
アメリカンペールエールは、アメリカのクラフトビール文化を象徴する存在です。
オレゴン州ポートランドの「デシューツ ブリュワリー」が造る「ミラーズペールエール」は、グレープフルーツのような香りとモルトの甘みが絶妙なバランスで、現地のビールフェスで飲んだときには思わずその場でおかわりしてしまいました。
イングリッシュペールエールは香りよりもモルトのコクを重視していて、ゆっくりと飲む時間に合います。ロンドンの老舗ブルワリー「バス ペールエール」は、その代表格です。
ペールエールと食事の組み合わせ
ペールエールは、揚げ物や焼き魚、シンプルな肉料理と相性が良いです。
ある日、自宅でアジフライを作り、北海道の「ノースアイランドビール」のペールエールを合わせたことがあります。
衣の香ばしさとビールの麦の甘みが調和して、ビールがまるで料理の一部になったように感じました。
特に休日の昼間にゆったりと楽しむと、ちょっとした旅行気分になります。
スタウトは深みと余韻の魅力
スタウトは、焙煎した麦芽を使うことで生まれる黒ビールです。
色は漆黒で、泡はクリーミー。
香りにはコーヒーやチョコレートを思わせるニュアンスがあります。重たそうに見えて、実際は軽めで飲みやすいものも多いです。
初めてスタウトを飲んだのは冬の新潟旅行の夜、地元ブルワリー「スワンレイクビール」のスタウトでした。
雪景色を見ながら飲むその一杯は、焙煎香の奥にほんのりとした甘みがあり、体の芯まで温まる感覚でした。
アイリッシュスタウトの代表格である「ギネス」は、軽い口当たりとコーヒーのような香ばしさで、世界中で愛されています
。一方、アルコール度数の高いインペリアルスタウトは、チョコレートやドライフルーツのような濃厚さを持ち、ゆっくり時間をかけて味わうのが醍醐味です。
スタウトに合わせたい料理
スタウトはデザートとの相性が抜群です。
以前、チョコレートタルトと「志賀高原ビール」のポーター(スタウトに近いスタイル)を合わせたところ、ビールのほろ苦さがチョコレートの甘さを引き締め、甘ったるさが残りませんでした。
ビーフシチューやラム肉の煮込みなど、コクのある料理にもよく合います。
クラフトビール3スタイル比較
スタイル | 発祥 | 色合い | 香りの特徴 | 味わいの特徴 | アルコール度数傾向 | 食事との相性 | おすすめ銘柄例 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
IPA(インディア・ペールエール) | イギリス | 黄金色〜琥珀色 | 柑橘、トロピカル、松の香り | 強い苦味と華やかな香り | 中〜やや高め(5〜7%) | スパイシー料理、肉料理、チーズ | ブルックリンIPA(アメリカ)、インドの青鬼(日本・ヤッホーブルーイング)、ストーンIPA(アメリカ) |
ペールエール | イギリス | 黄金色〜淡い琥珀色 | 柑橘やハーブ(アメリカ)、モルト香(イギリス) | 麦芽とホップのバランスが良く、飲みやすい | 中程度(4.5〜6%) | 揚げ物、焼き魚、チキン | 496(日本・スプリングバレーブルワリー)、バス ペールエール(イギリス)、ミラーズペールエール(アメリカ) |
スタウト | イギリス・アイルランド | 漆黒 | コーヒー、チョコレート、ロースト香 | 濃厚なコクと香ばしさ、甘みのあるタイプも | 幅広い(4〜10%以上) | デザート、煮込み料理、ラム肉 | ギネス(アイルランド)、スワンレイクビール・スタウト(日本)、志賀高原ビール・ポーター(日本) |
クラフトビール初心者向け飲み方ガイド
クラフトビールのスタイルは奥が深く、いきなり苦味の強いIPAから入ると「ちょっときつい…」と感じる人も多いです。
そこで、私のおすすめはこの順番。
軽めから始めて、徐々に香りや苦味の強い世界へステップアップすると、どのスタイルも楽しめるようになります。
まずはペールエールから。
麦芽の甘みとホップの香りのバランスが良く、癖が強すぎないので、クラフトビールの入り口として最適です。
特にスプリングバレーブルワリーの「496」やバス ペールエールは、クラシックな美味しさで安心感があります。
次にIPA。
ペールエールに慣れてきたら、華やかな香りとしっかりした苦味のIPAへ。
最初はセッションIPAのような軽めのものから試すと、苦味にびっくりせずに楽しめます。
夏場なら忽布古丹醸造のセッションIPA、少し慣れてきたらインドの青鬼やブルックリンIPAに挑戦してみると、ホップの魅力がぐっと広がります。
最後にスタウト。
冬や夜のゆったりした時間に、焙煎香の効いたスタウトをじっくり味わってみてください。
ギネスのような軽めのものから始め、好みに合えばスワンレイクや志賀高原ビールの濃厚なタイプへ。
ビーフシチューやチョコレートケーキと合わせると、ビールの新しい一面に出会えます。
この順番で試すと、クラフトビールの多様なスタイルを無理なく体験でき、自分の好みも自然と見えてきます。
最終的には、その日の気分や料理に合わせて選べるようになるでしょう。
クラフトビール地域別の味の傾向マップ
クラフトビールは同じスタイルでも、造られる地域によって味の方向性が大きく変わります。
これは気候や水質、使われる原料、そしてブルワリーの文化的背景が影響しています。
旅行先や通販で選ぶとき、この傾向を知っておくと好みに合った一杯に出会いやすくなります。
アメリカ西海岸(カリフォルニア・オレゴン・ワシントン州)
西海岸はホップ文化の中心地。IPAやペールエールは柑橘や松の香りが力強く、苦味がシャープな傾向があります。
サンディエゴの「ストーンIPA」やポートランドの「デシューツ ブリュワリー」のペールエールはその象徴です。
乾燥した気候と太陽の光が、このパンチのある味わいを生む土壌になっています。
アメリカ東海岸(ニューヨーク・バーモント州)
東海岸はジューシーで濁りのあるニューイングランドIPAの発祥地。
マンゴーやパイナップルのような甘い香りと、やわらかい苦味が特徴です。
苦味が強すぎないので、日本のビールファンにも人気があります。
バーモント州の「ヘイジーIPA」は、まるでフルーツジュースのような飲み口でした。
イギリス・アイルランド
ビールの伝統国らしく、モルトのコクを大切にした味づくりが多いです。
ペールエールは香りよりも落ち着いた甘みが中心で、スタウトも軽やかで毎日飲めるタイプが多いです。
ロンドンで飲んだバス ペールエールは、派手さはないもののじんわりと美味しさが広がる「飽きのこない味」でした。
日本
日本のクラフトビールは、海外の影響を受けつつも水のやわらかさと繊細な味わいを活かしています。
IPAでも苦味を抑えたタイプが多く、食事に合わせやすいのが特徴です。
忽布古丹醸造や志賀高原ビール、スワンレイクビールは、海外スタイルをベースにしながらも日本の感性が光る造りをしています。
ベルギー
今回の3スタイルとは少し違いますが、ベルギービールは酵母由来のフルーティーな香りやスパイス感が特徴で、アルコール度数もやや高めです。
甘みと香りの複雑さを求めるなら、一度試してみる価値があります。IPAやペールエールを飲み慣れた後に挑戦すると、新しい扉が開くはずです。
地域ごとの特徴を知ると、「今日は西海岸のシャープなIPAを」「冬だからアイルランドの軽やかなスタウトを」といった選び方ができるようになります。
これは、まるで世界中のブルワリーを旅しているような感覚で、クラフトビールの面白さを何倍にもしてくれます。
まとめ
クラフトビールの世界は、IPA、ペールエール、スタウトという3つのスタイルを知ることで一気に広がります。
IPAの華やかな香りと苦味、ペールエールのバランスの良さ、スタウトの深みと余韻。
それぞれが持つ個性は、造られた地域やブルワリーの哲学によってさらに変化します。
実際に飲み比べることで、自分の好みやその日の気分に合う一本を選べるようになるのも、クラフトビールの大きな魅力です。
食事との組み合わせや季節感も楽しみながら、少しずつ新しいスタイルや銘柄に挑戦してみてください。
ビールは単なる飲み物ではなく、歴史や文化、造り手の思いが詰まった一本の物語です。
その物語を味わう時間こそが、クラフトビールの最大の贅沢かもしれません。
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