兵庫って関西圏に住んでいると地味にビールの選択肢が多い。
けれど、意外とその深みに気づいていない人も多い気がします。
酒屋の棚で目にしたあのラベル、観光帰りにふと飲んだ一本、どれもそれなりに思い出にはなっているのに、その背景や味の違いまでは語れない。
だからこそ、今回は兵庫のクラフトビールに焦点を当てて、土地の風土や造り手の想いが滲む一杯一杯を、自分なりの視点で紹介していきたいと思います。
都市と自然が混ざり合う神戸エリアのクラフトビール
港町の印象が強い神戸だけれど、クラフトビールの世界ではもう少し奥深い顔を見せてくれる。
都会的な洗練さのなかに、どこか温かみのある味わい。
そんな印象を受けたビールがいくつかあります。
六甲ビール(神戸市灘区)
初めてこのビールに出会ったのは、三宮の立ち飲み屋でした。
涼しい風が流れ込むカウンターで、グラスに注がれた琥珀色の液体がやけに輝いて見えたのをよく覚えています。
六甲ビールの特徴は、優しく包み込むような香りと、柔らかなホップの余韻。
IPAでもガツンと来る感じではなく、柑橘のアロマがふわっと広がって、スッと消えていく。
この余白のある感じが神戸っぽい。
仕事帰りに軽く一杯、という気持ちにちょうど寄り添ってくれる存在です。
ポーターも良かった。
焦げ感がしっかりありながら、後味は驚くほどまろやか。
真冬の夜、部屋で音楽を流しながらゆっくり飲むには最適でした。
open air(神戸市中央区)
旧居留地の一角にあるブルワリーカフェ。
コンクリ打ちっぱなしの空間と、植物のグリーンが絶妙に馴染んでいて、どこかベルリンっぽさを感じました。
ビールも都会的でモダンな印象。
セゾン系のビールを飲んだときは、ちょっと驚きました。
スパイスの香りとほのかな酸味が、まるでリースリングのように複雑。
料理とのペアリングも面白く、昼間にクラフトビールと軽食を楽しむスタイルがすごく似合う場所です。
カフェとしても人気で、ビール初心者にもとっつきやすい雰囲気があります。
地元の人が日常的に通っているのも納得です。
海と港のにおいが染み込んだ明石・淡路エリアのビール
潮風を感じる場所で飲むビールには、やっぱり海の記憶が宿る気がします。
あの塩気混じりの空気の中で喉を潤すと、体だけじゃなく頭の中までスッキリする。
そんな感覚に出会ったのがこのエリアでした。
明石ビール(明石市)
明石駅から海沿いを歩いたところにある小さなブルワリー。
初めて訪れた日は風が強くて、道端の看板がギシギシ鳴っていたのを今でも覚えています。
ここのピルスナーは、麦の甘みがじんわり広がって、喉越しがとても滑らか。
真夏の昼下がりにクーラーの効いた部屋で飲むと、ちょっと幸せになれます。
クセが少ないからか、ビールが苦手という人にも「これなら飲める」と言われたことがあります。
少し変わり種で言えば、シーズナルで出ていた牡蠣ビールが印象的でした。
魚介の風味というよりは、まろやかでコクのある後味。
濃い味の料理と合わせると、互いに味を引き立ててくれる不思議な一本でした。
あわぢびーる(淡路島)
淡路島ドライブの途中、道の駅で偶然見かけて買ったのが最初の出会いです。
特に期待してなかったのに、家で飲んでみたら妙に美味しくて、それ以来気になって仕方がない存在になりました。
ペールエールは、香りがフルーティで、ホップの苦味もちょうどいい。
柑橘系の爽やかさと、淡路島の柔らかい空気感がリンクしていて、気づけば飲み終えてしまうタイプです。
島という場所柄か、全体的に穏やかで丸みのある味わいが多い気がします。
観光ついでに買って帰るだけじゃなく、きちんと味わってみる価値がある銘柄です。
山の静けさが染み込んだ内陸部のクラフトビール
都会や海沿いとはまた違った表情を見せてくれるのが、山に囲まれた土地で造られるビール。
静かな時間の中でじっくりと向き合いたくなるような、そんな味わいに出会える場所がいくつかありました。
丹波路ブルワリー(丹波篠山市)
篠山の町並みをぶらぶら歩いていたときに偶然見つけた、小さな醸造所。
木造の建物に、手書き風の看板がぽつんとあって、思わず足を止めてしまいました。
セッションIPAは軽めながらも香りが鮮やかで、柑橘とハーブがふわりと鼻を抜けていきます。
ビールに強くない人でも無理なく飲める感じで、山の空気に合っていました。
特に秋の紅葉の時期、縁側でこのビールを飲んだときの光景が忘れられません。
地元の野菜を使ったフードも提供されていて、観光地としてだけでなく、暮らしの中に溶け込んでいる雰囲気があります。
観光客にも地元の人にも優しい場所だと感じました。
城崎ビール(豊岡市)
温泉帰り、駅前の売店でふと手に取ったのが始まりでした。
あの時は「温泉地の土産もの」として期待してなかったけれど、いい意味で裏切られました。
アルトは赤みがかった美しい色合いで、口に含むとモルトの旨味がしっかりと広がります。
風呂上がりの火照った体に、ふわっと染み入る感覚が心地よかったです。
スタウトも印象深く、焙煎麦のビターさとほんのりした甘みが絶妙でした。
カフェオレのようなニュアンスがあって、食後にデザート感覚で飲むのもアリだと思います。
まとめ
クラフトビールって、ただの飲み物じゃないと思うんです。
その土地の空気や光、温度みたいなものがギュッと詰まっていて、飲んだ瞬間にそこへ連れて行かれるような感覚がある。
兵庫のクラフトビールは、都会の洗練、海の透明感、山のぬくもり、それぞれの土地の個性がしっかりと味わいに表れています。
そして何より、どのブルワリーも真面目に、でもちょっと遊び心を持ってビールを造っている。
その感じが、飲む人の気持ちをふわっと軽くしてくれる気がします。
もし次に兵庫を訪れることがあれば、その土地のビールを探してみるのも面白いかもしれません。
観光スポットよりも、そっちの方がよっぽど記憶に残ったりすることもあるので。
クラフトビール好きの人はもちろん、これから飲んでみたいと思っている人にも、兵庫のビールが何かしらのきっかけになれば嬉しいです。
ビールって、気分を変える魔法みたいなところがあると思います。
同じ銘柄でも、飲む場所や一緒にいる人、天気や時間帯によって印象が変わってくる。
兵庫のクラフトビールは、そんな変化すらも楽しませてくれるような、懐の深さがあります。
次に缶を開けるそのとき、ちょっとだけ自分の感覚を信じて飲んでみると、思いがけない発見があるかもしれません。
兵庫県を訪れた際には、ぜひこれらのクラフトビールを味わってみてください。
地域の風土や文化が詰まった一杯が、旅の思い出をより豊かにしてくれることでしょう。
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