クラフトビールが好きな人なら、一度はアメリカンIPAやウエストコーストIPAという言葉を聞いたことがあるかもしれません。
どちらもIPA(インディア・ペール・エール)の一種ですが、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。
それぞれの特長や歴史を詳しく解説していきます。
アメリカンIPAとは
アメリカンIPAは、アメリカ産のホップを豊富に使用したIPAスタイルのビールです。
ホップ由来の華やかな香りと強い苦味が特長で、クラフトビールブームの中心的な存在となっています。
アメリカンIPAの特長
アメリカンIPAの最大の特長は、ホップの香りが際立っていることです。
アメリカ産ホップには柑橘系やトロピカルフルーツのような香りを持つものが多く、ビールに爽やかさを与えます。
また、苦味もしっかりと感じられるものが多く、ホップの種類や使用量によって個性が大きく異なります。
モルトの甘みは控えめで、すっきりとした飲み口のビールが多いのもアメリカンIPAの特長です。
これは、ホップの風味を最大限に引き出すためにレシピが工夫されているためです。
アルコール度数は5~7%程度が一般的で、比較的高めのものが多くなっています。
アメリカンIPAの歴史
アメリカンIPAの起源は、1970年代後半から1980年代にかけてのアメリカのクラフトビールブームにあります。
当時のアメリカでは、大手ビールメーカーによるラガービールが主流でしたが、小規模なブルワリーが独自のスタイルを追求する中で、IPAが再び注目されるようになりました。
特にカリフォルニア州のブルワリーがアメリカ産ホップを活用したIPAを積極的に醸造したことで、アメリカンIPAのスタイルが確立されていきました。
その後、1990年代から2000年代にかけてクラフトビール文化がさらに発展し、アメリカンIPAは世界的に人気のビールスタイルへと成長しました。
ウエストコーストIPAとは
ウエストコーストIPAは、アメリカ西海岸で発展したIPAのスタイルです。
アメリカンIPAの中でも特にホップの苦味と香りを強調したものが、ウエストコーストIPAと呼ばれるようになりました。
ウエストコーストIPAの特長
ウエストコーストIPAの最大の特長は、ホップの苦味が非常に強いことです。
通常のアメリカンIPAよりもホップの使用量が多く、飲んだ瞬間にしっかりとした苦味を感じるものが多くなっています。
また、ホップ由来の柑橘系や松脂のような香りが強く、インパクトのある風味を楽しめるのも特長のひとつです。
モルトの甘みは極力抑えられており、ドライな飲み口が多いのもウエストコーストIPAの特長です。
これは、ホップの風味を最大限に活かすために設計されたレシピによるものです。
アルコール度数は6~8%程度とやや高めで、飲みごたえのあるビールが多くなっています。
ウエストコーストIPAの歴史
ウエストコーストIPAは、1980年代から1990年代にかけてカリフォルニア州で誕生しました。
特に、サンディエゴやサンフランシスコのブルワリーが積極的にホップを活かしたビール作りを進めたことで、現在のウエストコーストIPAのスタイルが確立されていきました。
その後、2000年代に入ると、ウエストコーストIPAはクラフトビール業界で爆発的な人気を博し、多くのブルワリーがこのスタイルのビールを醸造するようになりました。
現在ではアメリカ国内にとどまらず、世界中で愛されるIPAの代表的なスタイルのひとつとなっています。
アメリカンIPAとウエストコーストIPAの違い
アメリカンIPAとウエストコーストIPAは、どちらもアメリカ発祥のIPAですが、スタイルとしての方向性には明確な違いがあります。
ホップの使い方、モルトの甘み、香り、飲み口などの点で異なり、飲んだときの印象が大きく変わるのが特徴です。
それぞれの違いを詳しく解説していきます。
ホップの使い方の違い
アメリカンIPAは、ホップの香りと苦味のバランスを大切にする傾向があります。
使用するホップの種類や投入のタイミングによって、フルーティーで華やかな香りを引き出しながら、適度な苦味を持たせる設計になっています。
ホップの苦味が強すぎると飲みにくくなってしまうため、モルトの甘みとの調和を考慮したレシピが採用されることが多いです。
一方で、ウエストコーストIPAは苦味をより強調したスタイルです。
ホップを大量に使用し、ビールの苦味の指標となるIBU(International Bitterness Units)が高くなる傾向があります。
これはウエストコーストIPAがクラフトビールの中でも特に「苦味好き」に向けたスタイルとして発展してきた背景があるためです。
ホップの投入タイミングも工夫されており、主に煮沸の段階で多く投入することで、苦味を最大限に引き出す設計になっています。
また、ドライホッピングの手法にも違いが見られます。
アメリカンIPAでは香りを引き立てるためにドライホッピングを多用する一方、ウエストコーストIPAでは香りだけでなく、よりシャープでキレのあるホップの苦味を出すための技法が使われることが多くなっています。
モルトの甘みの違い
アメリカンIPAは、ホップの風味を引き立てながらも、適度なモルトの甘みが感じられるものが多いです。
これは、ホップの苦味が強くなりすぎないように、バランスを取るための設計になっているためです。
特にキャラメルモルトやミュンヘンモルトを使用することで、わずかに甘みやコクを持たせたビールも見られます。
これにより、飲みやすさが向上し、幅広い層に受け入れられやすいスタイルになっています。
一方で、ウエストコーストIPAはモルト感を極力抑えており、ドライでキレのある飲み口が特徴的です。
これは「ホップの苦味を最大限に活かす」ことを目的としたスタイルであり、モルトの甘みが感じられるとビールの印象が変わってしまうため、極力シンプルなグレインビル(麦芽の配合)で仕上げることが多いです。
ペールモルトを主体とし、キャラメルモルトの使用を最低限にすることで、クリーンでシャープな飲み口を実現しています。
そのため、ウエストコーストIPAは苦味がストレートに伝わり、飲んだ瞬間から強烈なホップの印象を感じることができます。
香りの違い
どちらもアメリカ産ホップを使用しますが、香りの方向性が大きく異なります。
アメリカンIPAは、トロピカルフルーツや柑橘系の香りが前面に出ることが多いです。
これは、シトラ(Citra)、モザイク(Mosaic)、アマリロ(Amarillo)といったフルーティーな香りを持つホップを積極的に使用するためです。
これにより、オレンジ、グレープフルーツ、マンゴー、パイナップルといったフルーツのような華やかな香りが楽しめます。
また、ドライホッピングによってホップのアロマを強調し、爽やかな印象を引き立てています。
ウエストコーストIPAは、松脂や草のようなホップの香りが強調される傾向があります。
これは、カスケード(Cascade)、センテニアル(Centennial)、コロンバス(Columbus)、チヌーク(Chinook)といった、よりシャープでスパイシーな香りを持つホップを多く使用するためです。
グレープフルーツの皮やレモンピールのような柑橘系の香りもありますが、それよりも松脂のような樹脂感や土っぽさを感じることが多いです。
そのため、ウエストコーストIPAは香りだけでなく、味わいにおいてもシャープでドライな印象が強くなります。
飲み口の違い
アメリカンIPAは、フルーティーな香りと適度な苦味のバランスが取れているため、比較的飲みやすいスタイルが多いです。
特にモルトの甘みが少し感じられることで、ホップの苦味が和らぎ、初心者でも楽しみやすいのが特徴です。
アルコール度数も5~7%程度が一般的で、幅広い層に親しまれています。
ウエストコーストIPAは、苦味がダイレクトに伝わり、ドライでスッキリとした飲み口が特徴的です。
モルト感を極力抑えているため、飲んだ瞬間にホップの苦味が強く感じられ、後味もキレが良く、スッと引いていくような感覚があります。
アルコール度数は6~8%程度とやや高めで、パンチのあるIPAを求める人に適しています。
色の違い
アメリカンIPAは、ややオレンジがかった琥珀色をしていることが多いです。
これはモルトの種類や使用量による影響で、少し赤みを帯びた色合いのものもあります。
濁りのあるものからクリアなものまで幅広く存在しますが、最近ではヘイジーIPA(Hazy IPA)などの影響もあり、濁ったタイプのアメリカンIPAも増えています。
ウエストコーストIPAは、よりクリアな黄金色をしていることが特徴的です。
モルト感を抑えているため、色も薄めで、濁りのない透明感のあるビールが主流です。
見た目からも「スッキリ」「シャープ」といった印象を与えるデザインになっています。
アメリカンIPAとウエストコーストIPA選び方
アメリカンIPAとウエストコーストIPAは、どちらもIPAらしいホップの香りと苦味を楽しめるビールですが、それぞれの特徴によって好みが分かれます。
自分に合ったスタイルを見つけるために、どのような味わいや飲み口が好きかを考えてみるとよいでしょう。
ホップの香りを存分に楽しみたい人にはアメリカンIPA
トロピカルフルーツや柑橘系のフレーバーが好きな場合、アメリカンIPAの華やかな香りが楽しめます。
苦味はしっかりと感じられるものの、モルトの甘みが適度に加わることでバランスが取れており、飲みやすさも兼ね備えています。
また、IPA初心者や普段あまり苦いビールを飲まない人にとっても、アメリカンIPAは比較的入りやすいスタイルです。
ホップのアロマと甘みの調和が取れているため、苦味が突出しすぎることなく、フルーティーな香りとともに楽しめます。
リラックスしながらビールを味わいたいときや、フルーティーな香りを存分に感じたいときには、アメリカンIPAがぴったりです。
食事とのペアリングも幅広く、グリルした肉料理やスパイシーな料理とも相性が良いです。
強い苦味とドライな飲み口が好きな人にはウエストコーストIPA
ホップの苦味をしっかりと楽しみたい場合、ウエストコーストIPAのシャープな味わいは理想的な選択肢です。
余分な甘みがなく、すっきりとした後味が特徴的なので、IPAらしい「ガツンとくる苦味」を求める人には特におすすめです。
また、クラフトビールの中でも「キレのある飲み口」を重視する人にもウエストコーストIPAは向いています。
甘みがほとんど感じられず、すぐにホップの苦味が広がり、松脂や草のような香りとともにクリーンな印象を与えます。
後味が重たくならず、何杯でも飲みたくなるような爽快感があるのも魅力のひとつです。
食事とのペアリングでは、ウエストコーストIPAの苦味とスッキリした飲み口が揚げ物や脂っこい料理と相性抜群です。
例えば、フライドチキンやバーベキュー、ピザなどの濃い味付けの料理と合わせることで、ビールの爽快感が引き立ちます。
どちらを選ぶべきか
アメリカンIPAとウエストコーストIPAは、それぞれ異なる魅力を持っています。
フルーティーな香りとバランスの取れた苦味を楽しみたいならアメリカンIPA、より強烈な苦味とドライな飲み口を求めるならウエストコーストIPAが適しています。
どちらもクラフトビールらしい個性的な味わいを持っているので、その日の気分やシチュエーションに応じて選ぶのもおすすめです。
例えば、リラックスしながら飲みたいときやフルーツの香りを楽しみたいときにはアメリカンIPAを、しっかりとした苦味を味わいたいときや爽快感を求めるときにはウエストコーストIPAを選ぶとよいでしょう。
クラフトビールの楽しみ方は無限大です。
ぜひいろいろなIPAを試して、自分にぴったりの一杯を見つけてみてください。
まとめ
アメリカンIPAとウエストコーストIPAは、どちらもホップをふんだんに使ったIPAですが、ホップの使い方やモルトの甘み、香りのバランスに違いがあります。
アメリカンIPAは香りと苦味のバランスを重視し、ウエストコーストIPAは苦味とドライな飲み口が特長的です。
それぞれの特長を知ることで、より自分の好みに合ったIPAを選ぶことができます。
クラフトビールの奥深さを楽しみながら、自分にぴったりのIPAを見つけてみてはいかがでしょうか。
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